風神号バッカニア120M。また納得のいくモノが完成して満足である。
フローハント88MLを作り上げた時のあの手応えと感動。二代目バッカニアを今、磯で振っていてそう感じる。
初代バッカニアの発売からヒラスズキシーンがどう発展したのか?と問われると昨今の港湾シーンのように劇的進化を遂げているワケでもない。地ベタを這いつくばって山を越えてゴロタを歩き、荒波に対峙することには未だ変わりない。以前から私が提唱しているようにヒラスズキが点の釣りであるということも変わらない事実だ。
その一点がマルスズキよりはるかに小さな捕食半径で、ハリの穴を通すようなアキュラシー性能がロッドに求められるのも不変だ。ロックショアのヒラスズキフィッシングにおいてもっとも大切なのはこのアキュラシー性である。どんな角度からの強風でも狙った点に入らないのであればヒラスズキロッドとして不適切であると言わざるを得ない。つまり2代目のバッカニアにもこの不変のコンセプトが柱であり背骨だ。では同じようなロッドのパート2で良いのか?そんなイイ加減なモノ造りはアピアが頑として受け付けないだろう。
そこで私が二代目バッカニアを製作するに当たって切り口を変えてみることにした。着目したのは釣り手本人のフィッシングスタイルである。初代バッカニアを作製した頃の私のメインフィールドは房総半島。磯が低くテーブル状に広がる地形はウエットスーツスタイルとの相性が抜群。ヒラスズキとのファイトもウエットスーツの機動性をフルに生かした展開が可能だ。当時、このスタイルに固執していた私は当然ロッドも機動性を生かしたファイトが楽しめるモノを指向した。
数年が経ち、メインフィールドも房総半島から伊豆半島の釣行が増えるようになった。もちろんウエットスタイルで攻略するのは変わりが無いのだが、ファイト中の機動性が生かせない場面に多く出くわすようになる。足場の限られた高い磯場、ドン深で外洋からのウネリがダイレクトに当たる磯。上下動の大きな水面。ウエットスタイルがまったく太刀打ちできない制約の多い磯。初代バッカニアの性能が存分に解放できないフィールド。
やがて九州や四国の遠征でも同様のことを感じるようになる。どうやら初代バッカニアにはまだまだ“伸びしろ”がありそうだ。
二代目バッカニアの軸となるのは初代と変わらずアキュラシー性だ。これに加えて以下の性能をプラスしてみよう。制約の多い条件下(例えば一歩も立ち位置が動けない)でも確実に80cmクラスをランディングに持ち込む。上下動の激しい水面でも足元でバラさないティップ。この二つの追加性能はマストだ。さらにRED的テイストを加えていこう…。
最近は特に遠方にある根、サラシを風で流して攻略する『ウインドドリフト』を多用するようになった。ポイントが遠い上に風でわざとラインをたるませて釣るのでとにかくアタリがわかり辛い。磯ではナイロンの方が操作性、耐摩耗性、伸縮する特性でバレにくい等のアドバンテージがあると考え長く愛用していた。しかし、大型の釣れる『ウインドドリフト』を多用するにあたって感度の良いPE系ラインを使う必要性を痛感。二代目バッカニアの開発が始まる段階からファイアーラインの18lbを使用しテストを重ねることとなる。結果的にはキャスト時にティップへの絡みを無くすため、ブレを極力押さえたマテリアルの使用することとなる。
さらにはPEに適したガイドのセッティングをした。タメが効くようにレングスも少し長くしたが、操作性を損なってはいけない。またラフな条件下でのファイトは伸びのあるナイロンラインを生かしてファイトができたが、PEの使用にあたってはロッドで直接ファイト時の衝撃吸収を行わなければならない。つまりブランク自体がヒラスズキの強引な引きや荒い波にもしなやかに対応する性能が求められた。そのしなやかさに加えてランカーを完全にコントロールできるパワーを両立させなければならないのである。この作業には試行錯誤と熟成の時間が長く必要だった。
そもそもヒラスズキ自体がそうそう簡単に釣れる相手。少しでも多くのデータを蓄積してロッドにフィードバックするため、私自身も釣行のほとんどが磯という状態。開発中に釣ったランカーサイズだけでも80cmアップ20本、90cmアップが1本という釣果を叩き出し、2008年春に至ってようやく十分納得のいく領域に仕上がってきたのである。
間もなく二代目バッカニアが日の目を見ることになるが、ランカーゲットの歓喜の傍らにこのロッドがあることを願うばかりである。
2008年6月 RED中村
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