ナイトホーク、それは現在の技術を使って港湾のシーバススタイルを極限まで突き詰めた一つの実験的プロダクトである。
思えば2004年の頃。湾奥でネオンナイトが全盛の頃、一つの現実に気付き始めた。
それはアングラーと魚との距離が遠くなっているということ。
当時、圧倒的な飛距離を出すネオンナイトは本当によく釣れた。全てのポイントが飛ばせばいいってもんではないが、飛ばせば飛ばすほどいいポイントも少なくはない。そのポイントの魚が更に遠くなる現象が起き始めた。当たり前である。湾奥のかなりの人がネオンナイトを使えば、当然その射程距離内の魚は減ってくる。当時の港湾におけるネオンナイトのシェアはそれくらいの勢いであった。くわえて他社の相次ぐ同コンセプトモデルの投入。
2005年は飛距離という点でネオンナイトの優位性が失われた年となった。
その後、ネオンナイトは2代目となり、さらに完成度は高くなった。飛距離が全てではないポイントでは未だに最高の一本であるに違いない。が、SOLAS条約の施行で港湾部のアングラーが河川や干潟といったところも回るようになった。当然、飛距離が欲しいときはしっかりと飛ばせて、その上で、魚に食わせる上で最も重要なアキュラシーや感度、操作性を犠牲にしないロッドの必要性が生まれてきたのだ。
僕とAPIAはすぐさま開発に入る。ロッドの開発コンセプトは、2つのポイントだけだった。1つめはいわゆるヘビカバスタイルという僕のスタイルを完全に具現化したもの。つまり、港湾部で必要なアキュラシーと感度、取り回しのしやすさ(片手バックハンドキャストが可能、トゥイッチやジャークが軽快にできること)などを絶対的条件とした。2つめに第一条件をクリアした上で、長ければ長いほどいい、という条件。
そう、今の文章を読んでピンと来た方は筋が良い。このコンセプトを搭載したロッドはただ一つ。風神Z610イブランである。ヘビカバスタイルの権化であるイブランをめいっぱい延長したモデル。それがナイトホークのコンセプトであった。
3ヶ月後、APIAから上がってきたファーストプロトは10.5ft。キャストすると飛距離はスゴイものの、やはり操作性が×。そこから1インチ、2インチと、少しずつ短くなり、やがて9.1ftという長さが先ほどの第一条件を満たせるギリギリの長さということになった。
これは近年のブランクス製造技術の進化のたまものであった。数年前のブランクスでは為し得なかった事を今のスパルタスの技術は簡単にやってしまう。9.1ftを片手のバックハンドでキャストできる姿を、そして9.1fで激しいトゥイッチやジャーキングを長い時間やり続ける姿を誰が想像できるだろうか。このロッドを手にした方はきっとその軽さに驚くはずである。
もう一つ操作性の向上の中でグリップエンドの長さを徹底的に切り詰めた。キャストする際にしっかりと持てて、なおかつ操作性を妨げない。その結果、一般的な9ftよりはるかに短いグリップエンドが生まれた。これにより抜群の操作性を実現したのだ。
そしてさらにすごいのは、リールシートが大きくエンド側に下がったことで、ロッドティップからリールシートまでの距離が一般的な9.6ftのロッドとほとんど変わらない長さとなった。実はルアーをキャストしたときの飛距離はロッドの長さではなく、最終的にはリールからロッドティップまでの長さで決まってくる。ナイトホークは9.6ftのロッドが持つ飛距離を発揮し、なおかつ港湾部で必要な操作性を両立した唯一のロッドなのである。
ウェイトセッティングは6〜28gと港湾部攻略の上で欠かせないルアー達のほとんどを網羅するセッティングにした。特にその中でも12〜20gのウェイトに対して最も飛距離を発揮するセッティングにした。このあたりにヨレヨレやレンジバイブ、ローリングベイト、レアフォースといった河川や干潟のハイレベルな攻略に欠かせないルアーがひしめいている。
他の人が「もう流れが止まった」と時合の終わりを悟る時、そこからがナイトホークの独壇場である。流れは流心から始まり、流心に向かって終わる。他のアングラーよりナイトホークを持つアングラーの時合は長いのだ。
「先駆ける」この言葉を使うとき、クロスインパクトを出した時を思い出す。このナイトホークもまた先駆けるロッドになるだろう。
2008年6月 村岡昌憲
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